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年齢を重ねるにつれて、聴力の衰えを感じる人は多いのではないでしょうか。加齢による聴力低下の対策として、補聴器が広く使用されています。
高齢化が進む日本では、80歳で30dBの聴力、もしくは補聴器をした状態で30dBの聴力を保つ聴こえ8030という国民啓発活動が普及しています。
30dBはささやき声が聞こえる程度の聴力で、日常生活におけるさまざまな音を問題なく聞き取ることができます。
聴力の衰えは自分ではなかなか気付きにくいものですが、放置してしまうと様々なリスクを引き起こします。聴力の衰えを感じたら早めの対策が必要になります。
本記事では、聴こえ8030の概要を確認した上で、聴力の低下を放置した際に起こりうるリスク、聴力のセルフチェック、聴力の変化を感じた時の対応などを解説します。
聴こえ8030運動とは?

聴こえ8030運動とは日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が推進する運動です。
80歳で30dBの聴力、もしくは補聴器をした状態で30dBの聴力を保つことを目指すもので、2024年9月からスタートしました。
聴力は周囲の音をしっかりと聞き取って周囲と会話したり、情報を耳から得たりするだけでなく、認知症リスクにも関わる重要な器官の一つであるため、健康的な人生を送っていくためにも必要な機能です。
しかしながら、日本において耳鼻科の受診率は低いのが現状です。
他の先進国と比較して補聴器装用率は約1/3、人工内耳普及率は約1/2ともいわれています。
また、聴こえ8030運動はご高齢者だけでなく、若い世代も対象の運動です。
聴力は一度低下すると再び高めることが難しいため、若いうちから聴力が低下しないように気を付けるという啓蒙活動の側面もあります。
聴こえ8030運動は、全世代が年齢を重ねてもしっかりと音を聞き取れるようにすることを目指しています。
聴力の低下を放置するとどうなる?起こりうる3つのリスク

聴力の低下を放置し、対策を怠ると、ただ聴こえにくいだけではなく、さまざまな病気のリスクがあるため注意が必要です。
聴力の低下に不安を感じたら耳鼻科を受診したり、補聴器を扱う専門店に相談したりすることをおすすめします。
聴力の低下を放置すると、主に以下のリスクがあります。
危機察知能力の低下
聴力の低下は危機察知能力の低下につながります。
人は周囲の音で危機を察しますが、音が聞こえないと状況を正しく判断できなかったり、非常事態を察するのに遅れたりすることもあります。
逃げ遅れの危険性も高まるため命にかかわる問題です。
認知症
聴力が低下すると、周囲とコミュニケーションをとることが億劫になり、日常生活において刺激が減ったり、人付き合いの機会が少なくなったりすることもあります。
これらは社会的孤立につながり、心理的な影響や変わり映えのない日常生活が認知症のリスクを高めます。
うつ症状
うつ症状は人間関係の悩み、疲労感などが原因で生じることもあります。
聴力の低下により、周囲の音を聞き取りにくい状況が続くと、ストレスが溜まり、うつ症状を引き起こすことがあります。
難聴の進行
聴力の低下を放置すると、聴力低下がさらに進行します。
特に、突発性難聴など急性の場合は早期治療が回復の鍵です。
聴こえにくさの原因はさまざまですので、自己判断せずに専門家の診断を早期に受けるようにしてください。
指摘されたら注意!聴力のセルフチェック

自分自身では聴力の変化は気付きにくいものですが、日常生活における何気ないシーンで、自身の聴力の変化に気付くことがあります。
以下、身に覚えがあれば、聴力が低下している可能性があります。
- テレビの音が大きいと言われた
- 聞き返しが多いと言われた
- 映画館や劇場で音が聞き取りにくい
- 親族や友人と飲食店で食事していると聞こえにくい
- 初対面の人との会話の声が聞こえにくい
- 家族と聞き返しの多さでケンカになりがち
- お客様の声が聞こえにくい
- 会話の聞き返しが多いという自覚がある
- 昔より声が大きくなったと言われた
上記リストのうち3~4つ該当する方は注意が必要です。専門家への相談をおすすめします。
聴力の変化を感じたら?

聴力の変化を感じたら、耳鼻咽喉科や補聴器専門店のもとに可能な限り早く行き、状態を相談することが大切です。
ここでは、聴力の変化を感じたらとるべき対策方法を紹介します。
補聴器専門店では無料で聴力測定ができる
聴こえ8030を意識するのであれば、まずは現状を“見える化”することが最初の一歩です。補聴器専門店では聴力測定を行えるので、こうしたサービスも活用し、現状を正しく把握してみてください。
認定補聴器技能者による測定・カウンセリングの流れは以下になります。
①初回カウンセリング
補聴器技能者が聴力の状態、日常生活での困りごと(会話、テレビの音)をヒアリングします。
②聴力測定
純音聴力測定(気・骨)、語音弁別能測定(言葉の聞き取り能力)を一般的に実施します。
防音室や専用の測定機器を使って、音の大きさ(デシベル)や周波数(ピッチ)ごとの聴力を測定します。
③補聴器の選定
補聴器が必要な状態と判断されれば、自分に合った補聴器を提案してもらえます。
補聴器といってもさまざまなタイプがあるため、聴力やライフスタイルに合った補聴器を補聴器技能者のアドバイスを受けながら選びます。
④試聴、フィッティング
視聴用補聴器を装着し、実際の音の聞こえ方を確認します。
静かな部屋や賑やかな場所など複数のシーンを想定し、いくつかの設定を試します。
⑤使用指導とアフターケアの説明
補聴器が決まったら、使用方法、アフターケアなどの説明を受けます。
早めの相談で“聴こえの貯金”を守れる
聴力は加齢や騒音などにより低下することがあるため日々の対策が必要です。
聴力は一度失われると完全な回復は難しいため、聴力が低下した場合は現状維持を目指し、生活の質を保つことを目標にします。
特に、聴力の低下を感じてすぐに補聴器を活用するなどの対策を行うことで、脳の聞く力を維持しやすくなります。
脳は音の処理によって活性化するものの、難聴が進行すると音刺激が減り、認知機能の低下や社会的な孤立リスクが高まるので注意が必要です。
補聴器は音を増幅し、脳にほどよい刺激を与えることで、聴覚機能を長く保つ助けとなります。
さらに、会話が聞き取りやすくなるため、映画やテレビを楽しめるだけでなく、家族や友人とのコミュニケーションもストレスフリーで行えます。
また、家族から「テレビの音がうるさい」と注意されたり、聞き返しが多いことでケンカになったりするのも防げます。
補聴器について高額なイメージを抱かれることも多いですが、補聴器の早期導入は長期的な健康投資です。
聞こえの変化に気づいたら、耳鼻咽喉科や補聴器専門店で早めに相談し、対策するようにしてください。
聴こえ8030運動とは?|まとめ
聴こえ8030は幅広い年齢層を対象とした運動で、80歳で30dBの聴力、もしくは補聴器をした状態で30dBの聴力を保つ国民啓発活動です。
日本は先進国の中でも耳鼻科の受診率が低いだけでなく、ご高齢者の聴力の低下を放置する傾向にあります。
聴力の低下を放置すると、日常生活や人との会話にストレスを感じやすくなるだけでなく、認知症やうつ病を発症しやすくなります。
さらに、危機察知能力も低下するため、事故に巻き込まれるリスクも高まるため注意が必要です。
こうした背景を鑑みて、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は聴こえ8030運動を推進しています。
聴力は一度低下すると回復が難しく、現状維持となることが多いです。このため、高齢になってから気を付けるのではなく、若い頃から聴力が低下しないように意識した生活を心掛けることが大切です。
聴力低下には加齢や病気、遺伝など個人の対策ではどうにもならない要因もありますが、イヤホンの過度な使用を避けるといった対策も聴力を守る上で効果的です。
聞こえを守ることが大切ですが、聞こえに不安がある方は早めに補聴器専門店や医師に相談してみてください。